『 崖の上で ― (3) ― 』
ふんふん ふ〜〜〜ん♪
ご機嫌ちゃんなハナウタがキッチンとリビングの間を 行き来している。
「 え〜〜と? こんなカンジかな〜〜〜 鏡 鏡〜〜〜 」
フランソワーズは手編みの帽子をかぶり 玄関に駆けだしていった。
「 う〜〜ん なかなかいいカンジ♪ 秋で〜〜すってね〜〜〜 」
玄関ホールの姿見の前で 彼女はくるり、と回ったり首を傾げたり・・・さかんにポ―ズを
とっている。
「 うふふ〜〜〜♪ に〜〜っこりって 」
最高の笑顔をもとめ鏡相手に 愛嬌を振りまいてみる。
ガタン ― 「 ただい ・・・ わ??? ・・・ ど どうかしたのかい?? 」
突然 玄関が開きジョーが顔をだし ― 固まった。
「 !? きゃ〜〜〜 いや〜〜〜 ジョー〜〜〜〜 」
「 え ??? え??? ぼく な なんにもしていないよ〜〜う ?? 」
いきなり悲鳴を上げられジョーはますます狼狽し 硬直したままだ。
「 やだ〜〜 なんで見るのぉ〜〜〜 」
「 え?? ぼ ぼく ・・・ 今帰ってきたとこなんだけど ・・・ 」
「 ・・・ あ そ そう?? そうよねえ ・・・あ お帰りなさい。 」
「 うん ただいま。 で どうしたの??? なんで鏡にむかって百面相してたの?? 」
「 ひゃくめんそう??? 」
「 あ・・・ その〜〜〜 いろんな顔 ってこと ・・・ 」
「 ・・・ あの ね。 この帽子が似合うかな〜〜って思って・・・ 」
フランソワ―ズはかぶっていた毛糸の帽子を脱いだ。
「 これ? きみが編んだのだよね? いいね〜似合うね〜〜って ぼく言ったよね
博士にも すごくいいって褒められて喜んでいたじゃないか。 」
「 え ええ この帽子はね〜 気に入ってるわ。 そうじゃなくて・・・ 」
「 帽子 じゃないの? 」
「 あのね。 これ を付けてみたの。 それで似合うかな〜〜〜って思って・・・・ 」
「 ???
」
彼女はちょっとはにかんだ様子で 帽子をジョーの前に差し出した。
「 ??? なにか 変えたのかい? 」
「 こ〜れ。 ほら、この前ジョーが裏山からたくさん獲ってきて・・・ コマにしたでしょ 」
「 ・・・ コマ? あ〜〜〜 どんぐり! 」
「 そう。 あれの残ってたのをね・・・ ほら ブローチにしてみたの。 」
「 わ ・・・あ〜〜 すごい〜〜〜 これ きみがつくったんだ? 」
帽子の横には 丸いのやら細長いどんぐりが数個、針金を通してまとめてあった。
「 わあ〜〜 すご〜〜い ・・・ 手作りなんだあ〜 」
「 うふふ・・・ そうなのよ、 こうやってちょっとぶどうみたいにして・・・
上からニスを塗ってみたの。 どうかしら・・・ 」
「 わあ〜〜〜 いいねえ〜〜〜 リスが喜びそうだよ〜 」
「 リス・・・?? 」
「 あ あ〜〜 おいしそうだし秋らしいし ・・・ あ! とってもよく似合うよ〜〜〜 」
「 そ そう?? 」
「 うん!!! 」
彼は真剣な顔で ぶんぶんと頷いている。 彼としては滅茶苦茶に熱心に褒める。
うふふ・・・・ ジョーってこんなとこがあったのね?
なんだか カワイイわあ〜〜
帽子に陰で フランソワーズはくすり、と笑った。
「 すごくいいよ! 秋〜〜って感じ。 その帽子の色とも合ってるよ。
」
「 うふふ そう〜? それじゃこれかぶって
今から買い物に行ってきま〜す。 」
「 あ 買い物って駅の方のスーパー? 」
「 ううん〜 今日はね〜
国道の先の商店街に行ってみようかなあ〜って
」
「 なら
一緒に行く! … あ ううん あの〜一緒に
行ってもいいかなあ
」
「 あ〜 嬉しい〜〜 誰かと一緒にお買い物って久しぶり。 」
「 あ あの! 荷物持ちなら任せてくれよ。 」
「
お願いシマス。 それとねえ この地域でオイシイモノ、教えてね。 」
「 おっけ〜〜〜 あ それじゃ買い物カート、もって行こうよ。 」
「 ああ そうね〜 」
「 ぼく、出してくるから門のとこで待っててくれる? 」
「 は〜〜い♪ 」
生活用品やら食糧の買い出しなのに ― 二人ともウキウキしていた。
ガラガラガラ 〜〜〜 うふふ〜 えへへ ・・・
買い物カートを引っ張って二人は地元商店街を歩き回った。
「 お〜〜や 岬の洋館の坊や。 あれ〜〜〜 カノジョかい?? 」
「 よ〜よ〜〜〜 えらいべっぴんさんじゃね〜の〜〜 」
「 や〜だ ジョー君、あんたの彼女さん?? 」
「 うっわ〜〜〜 お人形みたいにキレイなヒトだね〜 帽子のどんぐり、お似合いよ? 」
「 わ〜〜 まっさん みたいなの?? 」
商店街のほうぼうでジョーは冷やかされっぱなしだった。
彼はよくここに買い物に来ており、結構顔なじみになったりしているのだ。
「 え あ ちがいますよ〜 友達です
」
「 うん キレイなヒトでしょう? 」
「 わ〜〜〜 おばちゃん、ちがいます〜〜 」
「 まっさん ??? 」
― 朝の連ドラよ! ・・・ きょとん、としている彼に フランソワーズが助け船をだした。
「 わ〜〜〜 仲 いいねえ〜〜 新婚さんとか?? 」
「 え! そうなんだ〜〜 そいじゃ これ! これ、もってきな〜〜 」
「 おう そんならウチは これさ! ニンニク喰ってすたみな倍増♪ 」
「 きれいな彼女さ〜〜ん また来てくれよ〜〜 」
「 は〜〜い メルシ〜〜〜 みなさん〜〜 」
終始フランソワーズはにこにこ・・・笑みを絶やさず、何を言われても笑顔を振り撒いていた。
かえってジョーの方が あたふた・おわおわして大汗をかいていた。
「 ふ〜〜〜〜 えっと〜〜〜 これで全部かな〜〜 フラン、チェックしてくれる? 」
「 ― 大丈夫 う〜ん ・・・ かなり余分なものも買わされたっぽいわねえ・・・ 」
「 ・・・ ごめ ん ・・・ 」
「 うふふ・・・ ジョーってば断われないヒトなのね。 」
「 ごめん ・・・ 」
「 いいわ いいわ。 ここの商店街のものは皆おいしそうよ。 お店の人たちも親切ね〜
野菜は新鮮だし お魚とかは種類がいっぱいあってびっくりしたわ。 」
「 うん 魚はね〜 美味しいよ、新鮮だし。 」
「 ね お料理 ・・・ できる? お魚の。 」
「 え!? ・・・ あ〜〜〜 ・・・ 大人に聞いた方がいいな 」
「 あ そうね! ふふふ ・・・ 楽しかったわ〜〜 」
「 ウン ・・・ ぼ ぼくも。 きみと一緒で ・・・ 」
彼はこっそり顔を赤らめていたが ご機嫌ちゃんの彼女は気づかなかった・・・らしい。
「 これからもここにお買い物に来るわ! ね ジョー? 」
「 う ん。 」
「 さ〜〜〜 帰ってオヤツにしましょ♪ 美味しそうな たい 買ったでしょ。 」
「 鯛??? え 買ったっけか? 」
「 買ったわよぉ〜〜 ほら 熱々だよ〜〜〜って。 カートの一番上に置いたわ? 」
「 一番上? ・・・ あ〜〜〜 これか。 あは これはね 鯛焼き さ。
うん これはきっときみも好きになるな〜 」
「 うふふ 楽しみ〜〜 」
「 ・・・ ウン。 また 一緒に買い物 ・・・ 」
「 あら〜〜 嬉しい! また荷物持ち、お願しま〜〜す。 」
ガラガラガラ ・・・ ふんふんふ〜ん♪ ららららア〜〜〜
遠目には新婚若夫婦、近くでみれば姉弟にもみえなくもない二人なのだった。
セピア色の思いつめた瞳をしってかしらずか 碧い瞳のパリジェンヌは上機嫌で
楽し気に地元の商店街にも馴染み始めていた。
― 秋も深まり この地に帰ってきてそろそろ一年が立ちはじめ・・・
崖っぷちの館では 穏やかな、そして静かな時間が流れている。
若者二人はそれぞれにアルバイトをしたり、レッスンに通ったり ごく当たり前の日々を
送っているし、博士も研究に没頭、コズミ博士を通じ世界各国の学会にコンタクトをとったり
時には顔を出すこともある。
温暖な気候のもと、このところ晴天が続く。
「 ただいま〜〜〜 」
「 ジョー お帰りなさ〜〜い! 」
ジョーが玄関のドアをあけると キッチンから元気のよい声が聞こえた。
「 クロック・ムッシュウ、作るわ〜 手を洗ってきて〜〜 」
「 わい♪ 」
彼はどたばた音をさせてすぐにキッチンに顔を出した。即行でバスルームと往復してきたようだ。
「 ウガイ 手洗い 完了〜〜〜 」
「 はい、今 オーブンに入れるわね〜〜 」
「 わほ♪ ムッシュウっていうと ハムが入っているんだよね〜〜 」
「 そ。 ベーコンじゃないけど・・・ 」
「 いい いい。 あのトースト、好きだ〜〜 とろ〜りチーズがさあ〜 」
「 うふふ・・・ もうちょっと待ってね。 ね〜 ジョー
日曜日 予定ある? 」
「 次の? ううん〜
車の掃除 するくらい 」
「
そうなの? それなら
ピクニック しない? 」
「 ぴくにっく? 」
「
そうよ〜 お弁当つくるわ〜 行き先はまかせて? 」
「 へぇ いいなあ〜
あ 車
出す?
」
「 ううん
歩きましょ すぐ近くまでだから 」
「 あ 荷物持ち …
畏まりました〜 」
「 はい できました〜〜 熱々よ、気をつけて・・・ 」
「 お〜〜〜〜 感激♪ いっただっきま〜〜す♪ 」
うふふ・・・ えへへ・・・ キッチンは良い匂いと笑顔でいっぱいになった。
「 うま〜〜〜〜 ・・・ こ〜ゆうのってここに来て初めて食べたよ。
オイシイね〜〜〜 きみの国にはオイシイものがたっくさんあるね。 」
「 うふふ・・・ ここにも美味しもの、い〜〜っぱいだわ〜〜
わたし、白いゴハン とか サバ味噌 とか ほっんと〜〜に好きよ♪ 」
「 あは ・・・で明日はサバ味噌をもってピクニック? 」
「 残念ね、鯖はもうちょっと寒くなってからの方がオイシイのよ。 」
「 へええ?? 詳しいねえ〜〜〜 」
「 …って 魚やのオジサンが言ってました〜〜 」
「 な〜んだ〜〜 あ〜〜〜 うま〜〜〜 」
「 うふ あ お茶淹れるわ〜〜〜 ・・・ コーラの方がいい? 」
「 いや きみの かふぇ・お・れ がいい〜〜 」
「 メルシ♪ 」
ケトルがシュンシュン ・・・ いい音をたてはじめた。
翌日もからり、と晴れ上がった。 温暖なこの地域でも朝はぐっと冷え込んだ。
日差しの暖かさが 朝の冷気を追い払うころ、 ジョーとフランソワーズは
海を臨む崖っぷちに来ていた。
「 ・・・ お〜〜〜 すげ〜〜場所 知ってるんだね〜〜 」
「 わたしのお気に入りなの。 あ でも最初に見つけたのはジョーでしょう? 」
「 え ・・・ そうだっけ か?? 」
「 そうよ〜 初めてこの国に来て・・・ まだコズミ先生のお家に居候していたころ
ほら ここでジョーってば海を見てたわ? 」
「 ・・・ あ あ〜〜〜 そんなこと あったねえ 」
近くを眺めれば海風に曲がった松の木に、見覚えがある気がしないでもない。
「 あったわよ。 ジョーってばずっと海を眺めていたわ。 」
「 そう だったっけ ・・・ 」
「 そうよ。 何を見ているの?って聞いたら それまでのこと、思い出してるって 」
「 ・・・ ああ なんかさ ものすご〜〜くムカシのことみたいな気がする・・・
ね! お腹減った〜〜〜 弁当 食べたいなあ〜〜 」
ジョーは笑って 抱えてきたバスケットを指した。
彼はわざと話題を変えたのだ ― 以前の辛い日々を彼女に思い出させたくはなかった。
・・・ ジョー ・・・ 気を使ってくれた・・・の?
「 まあ〜〜 食いしん坊さんねえ〜 いいわ、じゃあここでランチにしましょ 」
「 うわぃ♪ えっと・・・これ 開けていい? 」
「 あ 待って。 レジャーシート、持ってきたから・・・ ほら これ。 」
「 ああ いいね〜 うん ぼくが広げるから・・・ 」
二人であれこれ ・・・ たちまち美味しそうなランチが並んだ。
「「 いただきま〜す♪ 」」
緩やかな昼の風が ふわり・・・と彼女の亜麻色の髪を 彼のセピアの髪を揺らしていた。
「 ・・・ ふ〜〜〜〜 あ〜〜〜 美味かったぁ〜〜〜 」
「 うふん わたしもそう思うわ ・・・ 」
「 お握り、上手だね〜〜 あ サンドイッチも最高だった・・・! 」
「 そう??? お握りって初めて作ったから心配だったの。 あれで いいの? 」
「 うん! さいこ〜〜に美味しかった〜〜 ツナマヨとかよく知ってるね 」
「 うふふ・・・ スーパーで見てね、スタジオのお友達に聞いたのよ。 」
「 あの味、好きだなあ〜〜 サンドイッチのさ、ハムときゅうりとチーズって最高〜 」
「 メルシ〜〜 ジョー。 ・・・ ね ここってステキよねえ ・・・ 」
彼女は 空になった袋やらナプキンをバスケットに詰めつつ海を眺める。
「 うん ・・・ 気持ちいいよね 」
「 こう〜〜 海って ・・・ 空につながってるなあ〜って思えちゃう・・・ 」
「 水平線って本当はないかも な 」
「 そうよ ・・・ だってジョーは 空から・・・海へ戻ってきてくれたんだもの。 」
「 ― フラン ・・・ 」
「 ごめんなさい、ヘンなこと言って ・・・ 」
「 謝る必要なんてないよ。 あ あの さ。 写真撮ろうよ〜〜 」
「 写真? ここの景色? 」
「 ぶ〜〜〜★ あ いいかな〜〜〜 ちょっとこっち 来て? 」
「 ??? 」
「 一瞬 ごめん! ・・・はい ち〜〜ず♪ 」
「 あ ・・・ 」
ジョーはぱっと彼女の肩を引き寄せると 逆の手を伸ばしシャッターを切った。
「 あら 」
「 あ ごめん・・・迷惑だった? 」
「 ううん ううん! ・・・嬉しい〜〜 あとでわたしにも送ってね。 」
「 うん♪ あ〜〜〜〜 最高〜〜〜な日だなあ〜〜 」
「 ホント! ステキな日曜日ね 〜〜 」
保存した写真をみて 二人で笑い合う。
・・・ でも本当はこっそり見てる ― なにを? 相手の横顔を 笑顔を こっそり。
えへ・・・ いいのが撮れたよ〜〜〜
かっわいいなあ〜〜〜 彼女・・・
・・・ ふふ でもホンモノの方がず〜〜っと♪
彼は熱い視線を彼女に向ける。
嬉しい〜〜〜 ステキ♪
二人で一緒に写しちゃった〜〜 つーしょっと♪
彼ってば 笑顔が一番 ステキよね〜〜
彼女はこっそり甘い視線を送る。
― けど。 ぼくのこと ・・・ どう思ってる?
わたしのこと ・・・ どう感じてるの?
笑顔を交わしつつも 相手の気持ちを確かめる勇気がない。
・・・ 自分だけの思いこみだったら?? もしかして迷惑かも??
若者たちの恋はなかなかじれったい。
サクサク サク ・・・ 足元は黄色い落ち葉の絨毯だ。
「 すごい・・・! こんなの 初めてみたわ・・・ 」
「 そう? うわっ すべ〜〜る〜〜〜 」
「 気をつけて ・・・ きゃ ・・・ 」
「 フランソワーズも〜〜 」
「 ふふふ・・・ 」
都心にほど近いおしゃれな街中で、二人の乙女が銀杏並木ではしゃいでいた。
フランソワーズがレッスン仲間と有名な散歩道を歩いているのだ。
「 きれいねえ・・・ スタジオの近くにこんなにステキな場所があるなんて〜〜
トウキョウって案外緑が多いのねえ 」
「 あ〜 ここはね、有名なんだ〜 う〜〜ん 東京の緑って多いかなあ???
アタシはパリを知らないけど・・・ 」
「 多いわよ〜 ほら あそこなんかすごい森じゃない? 」
「 え・・・ 」
フランソワーズは ひょい、と顔を上げて通りの先、お濠の向こうを指した。
「 あ〜〜 あそこはさ ・・・ 入れないんだ。 」
「 え そうなの?? 特別な公園なの?? 」
「 ― あそこは ヒトんち だから ・・・ 」
( ・・・ そう 皇居 は確かに < ヒトんち > なのだ ! )
「 まあ〜〜〜 すごい! そうなの・・・ でも緑が見れるだけでもいいわよねえ 」
「 ま ね ・・・ ねえ ここって案外暖かいね 」
「 そうねえ。 ね カワイイ葉っぱ 拾ってかえっても叱られない? 」
「 別にいいんでないの? ここは公共の場所だし ・・・ 」
「 そう? ん〜〜〜〜 ・・・・ キレイなのをね〜〜 本に挟もうかなって 」
「 お〜〜〜 乙女ちっくだねえ フランソワーズはあ〜〜 」
「 おとめちっく? 」
「 オンナノコらしいってこと。 」
「 ??? あ これがいいな〜〜 えっとパスの中に挟んでおくわ・・・ 」
大きなバッグの中からごそごそ・・・ パス・ケースを引っぱりだす。
「 んん〜〜〜 と ほら〜〜 」
「 あ いいね〜〜 あは♪ み〜〜っけ! これ・・・ カレシ? 」
この前の < ぴくにっく > でのツーショットを こっそりプリント・アウトしていた。
にこにこ顔の二人 ・・・ どうみても デートの最中 だ。
「 え!? う ううん ううん〜〜〜 全然! 」
「 え〜〜〜 そぉ?? 二人ともいい感じじゃん? 」
「 ・・・ そう 見える? 」
「 見えるよぉ〜〜 お似合いだね、フランソワーズ〜〜 」
「 やだぁ みちよさん そんなんじゃないの ・・・ オトモダチだわ。 」
「 ハイハイ〜〜 一番親しくする オトモダチ ですね〜 」
「 もう ・・・ 」
フランソワーズは真っ赤っかになっている。
「 ホント、いい感じだよ〜〜 うん、このカレシ、フランソワーズにぞっこ〜〜んだわさ。 」
「 ぞっこん ??? 」
「 ホンマジですってこと よ♪ 」
「 ・・・ そ そ そう ・・・? 」
「 ウン! 保証するよ〜ん 」
「 ・・・・・ 」
真っ赤な頬のまま もう一度じ〜〜〜っと写真を見た。
ちがう!って 思いっ切り首を振っちゃった・・・ ごめんなさい ジョー ・・・
否定したこころを痛がっている自分がいる。
でも はっきりとした自信も ない。 どうしよう・・・どうしたら いいの・・・
そんなじれったい気持ちで 彼女はそっとため息をついた。
「 ただいま帰りましたァ〜〜〜 ちょっと庭に水、撒いてきまぁす〜〜 」
どん ― 大きなレッスン用のバッグを玄関に置くと、 フランソワーズはそのまま庭に回った。
「 あ〜〜〜 疲れた〜〜〜 ・・・銀杏並木はほっんとうにキレイだったわ・・・
ウチの垣根もあんな風になるといいなあ・・・ 」
テラスの側の水道で如雨露をいっぱいにして垣根の方に回った。
庭はかなり手入れがされてきて 花壇にはコスモスやら小菊が咲きなかなか賑やかだ。
「 うふふ コスモスさ〜ん ・・・・ はい お水〜〜 菊さん お水 どうぞ〜
・・・ 菊って食べられるって聞いたわ、今度晩御飯にちょっともらってもいい? 」
花壇から垣根に進んでゆく。 垣根沿いには 例のいろいろな種類の木が立っている。
「 ウチにも銀杏、あるのよね。 う〜〜ん ・・・ 葉っぱはキレイな黄色になったけど・・・
まだ少ないわねえ・・・ 背も低いし。 今年は実は生らないのかなあ・・・・
ジョーの か〜き〜クンもキレイに紅葉したけど 実がならないわねえ。
ま 今年はしょうがないか・・・・来年はきっと ね! か〜き〜クン、待ってまあす♪ 」
ひょろり、とした柿の木には大きな葉が数枚ついていて そこそこ色づいている。
「 ウチで あのつやつやした実が生ったらものすごくステキだと思うのね〜〜
焦げちゃったトコも目立たなくなったし、来年こそ頑張ってね〜〜
桜さ〜〜ん まあキレイな葉っぱ 真っ赤ねえ・・・
うふふ ・・・ モミの木さん、クリスマスにはヨロシクね♪ 」
一本 一本に話しかけつつ、彼女は楽し気に水を掛けてゆく。
最後にテラスにもどり 梅の木を眺める。
「 ・・・ 随分葉っぱが落ちたわねえ ・・・ 春、待ってるわよ。
ねえ ねえ うめこちゃん。 聞いてくれる? うめこちゃんだけにこっそり言うわ。
あ・・・ これはナイショよ? あのね わたし。
わたし。 やっぱりホントに ― ジョーが 好き ・・・! 」
ぷるるん。 梅の木はこそっと微笑んでくれた、と彼女は思った。
「 ― ほう ・・・? 」
博士は書斎の窓辺で 思わず目を凝らせていた。
「 ふむ? 最近の若いもんは 木と会話 するのが 流行っておるのかのぅ?
ジョーもテラスにある梅の木に熱心にかたりかけておったし なあ ・・・ 」
天才博士もヒトの恋路の行方については ― 不可解 ・・・らしい。
季節はどんどん進んでゆく。
温暖な気候の土地であるが 時には冬の嵐がやってくることもあった。
低気圧が接近し、一旦風が吹き荒れはじめると海に突き出した崖の上はかなりの影響を受ける。
ヒュウ −−−− ・・・・ カタカタカタ ・・・
「 すごい風 ・・・ なんだかず〜〜んと冷えてきたわ 」
フランソワーズはテラスのフレンチ・ドアをしっかりと閉め直した。
「 ・・・ うむ ・・・ 雨になるらしいのう。 かなり冷え込むから雪になるか・・・ 」
博士は半纏姿で首を竦めている。
「 雪?? まあ〜 この辺りでも降りますの? 」
「 うむ ごくたまにはそんなこともあるらしいよ。 ぶるぶる・・・ 」
「 中にお入りになって 博士。 植木鉢たちも皆避難させましたから。 」
「 おお すまんなあ・・・ どれ 美味いコーヒーでも淹れようか。
新しい豆があったな? 」
「 はい、 グレートのお土産ですけど ・・・ 」
「 おお そうか。 では任せておけ。 ? ジョーはどうしたね。 」
「 ガレージを点検に行ってます。 もうすぐ戻りますわ。 」
「 ふふふ・・・アイツは相変わらず愛車・命 なんじゃなあ 」
「 ええ ・・・ あ リンゴのコンポートがありますからシナモンとブランディ を
ちょっと掛けて ・・・ いかが? 」
「 おお いいのう〜〜 コーヒーにぴったりじゃよ。 」
「 ですね♪ それじゃ 」
― バタン。 キッチンのドアがいきなり開いた。
「 ひゃ〜〜〜〜 すごい風だよ〜〜〜 」
「 うわ!? ・・・ やだ〜〜〜 ジョーったら・・・こんなところから急に入ってきて 」
「 あ ごめん ・・・ ガレージから裏庭に回ったから ・・・
あ 温室は大丈夫、点検したけどこの程度の嵐にはびくともしないよ。 」
「 まぁ ありがとう! さすがジェロニモの制作ね。 」
「 ウン 頑丈だもん。 へ〜〜っくしゅ! 」
「 やだ ほらほらはやく上がって・・・ お風呂 入る? 」
「 いや まだいい・・・ タオル ある? 」
「 ほら ・・・ 」
フランソワーズはキッチンにあったタオルを渡した。
「 ちゃんと拭いて ・・・ ね 熱々のコーヒーとスウィーツでお茶よ? 」
「 うわい♪ じゃ〜〜 急い手洗ってくるね〜〜 」
ジョーは濡れた髪にタオルを置いて ばたばたバスルームに行った。
「 ・・・ んん ・・・? 寒 ・・・ 」
真夜中に ふと ― 目が覚めてしまった。 腕が毛布からはみ出ていた。
「 やだあ〜 もう あら ・・・・? なんか 静すぎるわ ・・?
音が ない ・・・? 」
もぞっと起き上がれば 襟元から寒気がさらに忍び込み染み透る。
「 うわ・・・さむ ・・・ へんねえ、窓はしっかり閉めたのに ・・・ 」
そっと起き出せば 素足にスリッパまでもがしんしんと冷えている。
その冷たさには 覚えがあった。
「 うふ ・・・ 昔 パリの冬ってこんな感じだったわ ・・・ ええ いつも ・・・ 」
この国に来て、この邸で暮らし始め ― 凍てつく感覚とは無縁になった。
しかし 生まれ育った街は、落ち葉と共に石畳の道は冷え込みはじめ冬には雪が降ったものだ。
「 ・・・ すっかり暖かい空気になれてしまったわねえ・・・ 」
窓によって こそっとカーテンを開けてみれば ―
「 ! わあ 〜〜〜 ・・・・ 」
しんしんと そして ひらひらと 闇夜の空から白いものが落ち続けている。
「 雪!! 本当に雪になったのね!! 」
べったり。 彼女は窓におでこをつけて熱心に外を眺める。
「 そうよ〜〜 晩御飯の時にミゾレっぽくなっていたのよね ・・・ 」
― その夜、晩御飯には鳥鍋を囲み 三人で大いに盛り上がった。
「 あ〜〜〜 美味しかったわあ〜〜 」
「 うん 最高〜〜〜 」
「 うむうむ・・・ チキンをこんなに美味く食べられるとは感激じゃ 」
「 フラン ほっぺ真っ赤だよ〜〜 」
「 そう?? うふ ・・・ ワイン、飲みすぎたかしら・・・ ちょっと冷やすわね。 」
箸を置いてから 彼女はテラスへの窓をほんの少し開けた。
「 ふう〜〜〜 ・・・ あ? ねえ ・・・ 雪! 雪だわ〜〜〜 」
「 え?? この辺りでは雨、って予報で言ってたよ? 」
「 でも でも 見て! 雪よ〜〜〜 まだ雨混じりだけど・・・ 」
「 ほう?? どうりで冷えると思っておったよ。 」
「 ね!? 積るかしら ?? 明日・・・ 」
彼女は もう窓に張り付いて大はしゃぎだ。
「 さあ なあ・・・ しかし最近乾燥続きじゃったからことによっては
積雪があるかもしれんよ。 」
「 わあ〜〜〜 積るといいなあ・・・・ ねえ ジョー?? 」
「 多分 無理だよ。 」
「 え〜〜 でもでも ほら・・・ どんどん雪が多くなってきたわよ?? 」
「 寒いからカーテン 閉めてくれないかな。 」
「 ・・・ あ ご ごめんなさい・・・ 」
彼の無関心な様子に しゅん・・となり、彼女は窓を離れたのだった。
「 そうよ ・・・ あの後、わたし何回も外を見に行ったけど・・・
ジョーってばぜんぜん無反応で 早々に寝るよって行っちゃったのよねえ。
寒いの、そんなに嫌いなのかしら ・・・ 」
もう一度オデコを窓にくっつけて見れば 雪はますます激しく・そして音もなく・ひそやかに
暗闇に舞い踊っている。
「 ・・・ すごい ・・・! あ ・・・ 海にも雪が降ってる〜〜〜 」
内陸の街に生まれ育った彼女にとって 海はまだまだ神秘な存在だ。
暗い水面に 音もなくあっと言う間に雪たちは消えてゆく。
「 ・・・ 海に呑まれてゆくのかも ・・・ 海はなんでも飲みこんでしまうのねえ・・・」
寒さも忘れて彼女は夜の雪にみとれている。
「 わあ ・・・ 裏山ってばもう真っ白〜〜〜 きっとあの池も凍っているわね!
ウチの裏庭もロマンチックに見えるわ〜〜 スキーできるかも??
あら! きゃ〜〜〜〜 クリスマスの木が〜〜 ホワイト・クリスマスになってる〜〜 」
もう大興奮で寒さなどどこへやら、パジャマにカ−ディガンを羽織っただけで窓を開けたり
閉めたりしている。
「 う〜〜ん こんなに素敵な景色、一人で見るのもなあ〜〜 」
・・・ ジョーと 一緒に見たい なあ ・・・
「 でも。 夜中に男性の部屋を尋ねる、なんて ― ふしだら ・・・ よねえ・・・
でも! ジョーは家族なんだし。 でも ・・・ 若い男性ですものねえ ・・・
でも ― 彼はジェントルマンだわ! でも。 お兄ちゃんに叱れるかも でも 」
う〜〜〜〜 ・・・・ でも でも でも で も!
がばっ!!! フランソワーズはパジャマの上にダウン・コートをしっかり着込み
部屋を出た。
「 ・・・ わあ ・・・ 廊下が明るい 〜〜〜 」
普段は常夜灯だけの薄暗い廊下が ほんのりと明るい。 窓の外の白さが照り返している。
「 ふうん ・・・ 雪明りってのもいいわねえ・・・ 」
ジョーの部屋の前にたち ひとつ深呼吸。
そして ― コンコンコン ・・・
「 ・・・ ジョー ・・・? 起きてる ? 」
「 ・・・・ 」
なにか声が聞こえた ― と思った。 部屋の主などうやら起きている雰囲気だ。
「 ね すごい雪なの〜〜 とってもキレイよ、一緒に見ない? 」
「 ・・・・ ! 」
「 え?? なあに? 聞こえない 」
「 ・・・ ・・・ 」
「 どうか ・・・ したの? あの ・・・ 入ってもいい? 」
確かになにか言っているのだが よく聞こえない。
< 耳 > と < 目 > を使うことは さすがに躊躇われた。
「 ね 開けるわ よ? 」
そっと押すとドアは難無く開いた。 中は真っ暗、常夜灯すら点いていない。
「 ジョー ? どうかしたの、具合悪いの? 」
しばらく目を凝らしていると 暗がりに慣れてきた。
ベッドは ― 寝た形跡がない。 机の前にも誰もいない。
「 ?? ジョー ・・・? どこにいるの? 」
「 ・・・ 嫌なんだ 」
「 え? ・・・ まあ ・・・ 」
くぐもった声を頼りに見回せば ― 部屋の隅っこに毛布をかぶって縮こまっている姿が あった。
「 ? どうしたの??? 」
「 ・・・ キライなんだ・・・ 雪 ・・・
「 え? 」
「 ・・・ 雪なんか ・・・ キライだ! 見たくない ・・・ 」
「 まあ どうして?? 」
「 ・・・ また ・・・ 一人になる ・・・ 雪と一緒に皆 いなくなった・・・
クビクロも・・・・ お母さんも。 お かあ さん ・・・
どうせ また いなくなるんだろう? きみ も ・・・ 雪と一緒に 」
彼は独り言みたいにひくく呟き 自分自身の腕に顔を埋めた。
「 ジョー ・・・ 」
「 雪なんか ・・・ 」
ふわり。 毛布の上から細い腕がジョーの身体にまわされた。
「 ・・・? 」
「 ここに いるわ。 ジョーと一緒にいるわ。 ねえ 一緒に雪を見ましょうよ? 」
「 ・・・ え 」
「 いつかきっと。 ジョーも雪が好きになりますように・・・ 」
暖かいキスがジョーの頬に降ってきた。 そして唇に唇が降れる。
「 ・・・ あ ・・・ ああ ・・・ うん ・・・ 」
「 ― ね? 」
それは淡い淡いキス、唇が触れ合うだけのキス だったけれど。
「 ・・・ フラン 」
「 ジョー。 」
この人が 好き。 好きだ フラン!
ええ わたしも。 ぼくだって。
二人はようやっと 崖の上の家で気持ちを確かめあうことができた。
後年、 雪の朝 はジョーにとって最高の朝となる。
そう ― 雪の降る朝に 彼の子供たちが元気のよい産声を ( ふたつ! )上げたのだ。
そしてもっともっと ずっと後のこと。
海っ端のその崖の上、 面白半分に登ったひとはきっとみつけるのだ。
荒れ放題の台地の中に 種類のちがう数本の木が立っているのを ・・・
10本の木は葉を揺らし寄り添って立っている。
そう・・・ もう誰もいない 崖の上で
**************************** Fin.
***************************
Last updated : 11,18,2014.
back / index
************ ひと言 ***********
まあ 島村さんち の成り立ち??話 かな〜
なんのかんのいって結局は らぶらぶ93♪
か〜き〜クン には すぴかちゃんがのぼって
実を齧ったのでした〜〜☆